佐野史郎が語る「冬彦さんは平成のゴジラだった」

心理サスペンス『限界団地』(東海テレビ・フジテレビ系)で連続ドラマ初主演を務める佐野史郎さん。その役どころ寺内誠司は“異常な老人”で、「冬彦さん」を思い出す人もいるかもしれない。あの、妻に不倫されるマザコン男の怪演から26年。あらためて佐野さんに「冬彦さんとは何だったのか」を伺いました。

文春オンライン 6/9(土) 11:00配信
佐野史郎さん ©山元茂樹/文藝春秋

◆◆◆

視聴率をどうしても意識してしまいますでしょう?

――連続ドラマの主演は初めてなんですね。

佐野 ありがたいことに映画は主演デビューでしたし(林海象監督『夢みるように眠りたい』86年)、舞台や映画、単発のドラマなどではフロントに立って仕事をすることは今までにずいぶんやってきたんですが、地上波の連続ドラマっていうのがね、またこれまでと違った責任を感じるんですよ。

――テレビの地上波だからこその責任ですか?

佐野 視聴率をどうしても意識してしまいますでしょう? それは脇役の冬彦をやっていた時でさえそうでしたから、主演となると重いですよ(笑)。『ずっとあなたが好きだった』が放送された時代って、今からもう26年も前になりますけど、あの頃はフジテレビの月9、トレンディードラマが全盛で、W浅野で視聴率30%超えみたいな世界でしたよね。TBSは数字的に苦労していたから、視聴率というのは一つの目標であり、モチベーションでもありました。ただ僕は主演の賀来千香子さんと布施博さんに次ぐポジションでしたから、フロントマンとしての責任はそこまで実感していなかったかもしれない。でも今回は主演ということで感じざるを得ません。

親分肌ではないんです

――視聴率も担う、座長のようなプレッシャーというか……。

佐野 うーん、ところが僕には意識的にみんなをまとめようという「座長気質」、親分肌みたいなところが見当たらない(笑)。ただ、似たような感覚かなと思っているのは、人気ドラマのゲスト主役の心境。あれはもう死に物狂いでやるんです。なぜかというと、その回の視聴率はゲスト主演次第だから。

――近いところでは長澤まさみさん主演の月9『コンフィデンスマンJP』に映画マニアの食品会社社長の役でゲスト主演されていましたね。

佐野 あのマニアぶりは、僕の実人生の嗜好とも重なり楽しい仕事でしたけど(笑)、それにしてもゲスト主演というのは言い訳無用の恐ろしさが付きまとうんです。そう考えると連続ドラマの主演って、怖いですよ。

あの頃と、時代の空気感が似ている

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――団地が舞台のドラマですが、主役のお話がきた時はどんな感想を持ちましたか?

佐野 尋常じゃない老人の役ですから、その意味では当然、26年前のマザコン男、桂田冬彦のことも頭に浮かびましたし、比べられるだろうことも覚悟の上、僕自身も意識しています。冬彦への挑戦ですかね? 人生でこういう強烈な役柄を、もう一度連続ドラマでやることになるとは思わなかったですけどね。

――巡り合わせだな、という印象ですか。

佐野 そうですね、時代の空気感もあの頃と似ているな、なんてことも思ったりしました。

――『ずっとあなたが好きだった』で冬彦さんを演じたのは1992年、平成4年のことです。

佐野 あの年は、いわゆるバブル崩壊直後で、経済も恋愛も生きる糧にならないのであれば、一体何を心の糧にして喜びを得たらいいんだろう……とか、それでも家族や共同体は必要なんだろうかとか、そういう時代のムードがあったと思うんです。冬彦の役は、そういう時代背景を探りながら演じていったつもりです。あれから26年、この2018年だってハラスメントの問題しかり、いろんな価値観が変わりつつあるし、国内外の情勢、経済、様々な不安定要因もあって決して明るい材料ばかりではないですよね。四半世紀の時間を経て、冬彦的なるものがまた復活するということは、大げさかもしれませんけど「歴史は繰り返す」という感じさえしています。

冬彦ってゴジラと一緒じゃないですか

――92年の流行語にはきんさん・ぎんさんの「うれしいような、かなしいような」もありましたが、「冬彦さん」も流行語に選ばれましたよね。

佐野 「冬彦さん現象」と呼ばれるような社会現象になったわけですけど、「冬彦=マザコン男」というキャラクターだけが一人歩きしてしまったことには、ちょっと思うところはあったんです。

――どういうことですか?

佐野 別にキャラクターを演じるために冬彦をやっていたわけじゃないんだ、という気持ちですかね。もちろん、物事がヒットするためにはわかりやすいキャラクターが必要かもしれません。ただ本当に大切なことは、なぜそのキャラクターとなって現れるかという、その背景だと思うんです。キャラクターでいえば、僕はあの時、冬彦という男は怪獣だと思って演じていたんです。

――冬彦さんは怪獣?

佐野 僕がゴジラファンだから言うわけじゃないんですけど、冬彦って、自分は何も悪いことしていないのに、母親の過剰な期待とか、自分ではどうにもできない環境によってああいう人格形成になって、周囲から化け物のように扱われてしまった人なんですよ。それって、ゴジラと一緒じゃないですか。そして、結婚相手が初恋の人に走って傷つけられ、溜まりに溜まったものを哀しみとともに一気に吐き出す。ただただ、正直に生きている人だと思う。でも、いつの時代も、正直すぎること、イノセントであることは世の中から怖れられ、排除され、葬られる運命にあるような気がします。社会にとってはその時代の価値観を崩してしまうかもしれない恐ろしい存在だから。

――冬彦=ゴジラ説! なるほど納得です。

佐野 もっと言いますとね、ゴジラの特撮監督・円谷英二はアメリカの怪獣映画『原子怪獣現わる』や『キングコング』に対抗するものを作ろうと考えたわけです。それは巨大タコのような怪獣という案もあったのですが、ゴジラを始め、その後の怪獣たちは日本の古代からの信仰の龍蛇信仰や山岳信仰を踏襲して……ってどんどんマニアックな話になっちゃうな(笑)。

そこに木馬があったから

――冬彦さんはその「出現してしまった」人なんですよね。

佐野 そうそう。実は『ずっとあなたが好きだった』の脚本を書かれた君塚良一さんも、プロデューサーの貴島誠一郎さんも、僕と同じく特撮ファンで、特にゴジラとウルトラマンが大好き。君塚さんはウルトラマンシリーズの脚本を手がけた金城哲夫さんや上原正三さん、『快獣ブースカ』『仮面ライダー』の脚本も手がけた市川森一さんの手法も勉強されているから、何となく冬彦への共通理解はあったかもしれないです。

――ドラマの視聴率は初回13%から最終回34.1%に急上昇するわけですが、それに刺激されるようにして佐野さんの演技もエスカレートしていくところはありませんでしたか?

佐野 途中から冬彦が世間の注目を一気に集め始めたこともあって、役が勝手に動き始めちゃった感じはありました。だから、変なことをやろう、強い演技をしようとは思いませんでした。むしろ抑えようとしたくらいで。とにかく、人格にはリアリティを失わなせいようにしようと、無茶苦茶なことやってもその発露だけはしっかりと伝えなければと思っていました。冬彦が木馬に乗りながら「他の男に僕の子どもを抱かせるなんて……あああ~~っ! 許さないぞ~!」って言う、あのよくテレビドラマの歴史などで使われるシーンも、そこに木馬があったから乗ったまでで(笑)。

平成という時代の予言の物語

――まさに佐野さんの俳優人生にとって「冬彦さん」は重要な役柄だったと思いますが、今あらためて「冬彦さん現象」とは何だったと思いますか?

佐野 平成の始まり、でしたよね? 平成という時代の予言の物語とでもいうか……。それはゴジラが備え持つような不安の象徴であったのかもしれません。

――冬彦さんは東大出のエリート銀行員で、ディーリングを担当していましたが、それも関連しているでしょうか。

佐野 彼は取引で大失敗して、勤め先の銀行に大損害を与えてクビになりますよね。そういう意味で冬彦はまさに、バブル崩壊、平成4年という不安定な時代、3年の助走を経て動き始めた平成時代の始まりの象徴のような気がします。

――最近では90年代にはまだ生まれていない子から「冬彦さんだ!」って言われることがあるそうですね。

佐野 小学生とかにね(笑)。動画配信なんかで観ているんだと思いますけど、まさか四半世紀後に小学生があのドラマを観るなんて、当時誰も思ってなかったから、びっくりしますよ。僕だって、平成最後にもう一度“冬彦的なるもの”を演じることになるとは思わなかった。

※後編〈 “怪優”佐野史郎が「フジテレビをぶっ壊す」と思ってた時代 〉につづく

写真=山元茂樹/文藝春秋

さの・しろう/1955年生まれ。山梨で生まれ、東京は練馬を経て島根県の松江市で育ち上京、75年に劇団シェイクスピア・シアターの創設に参加。80年から4年半、唐十郎主宰の「状況劇場」に所属した。86年に映画『夢みるように眠りたい』(林海象監督)主演で映画デビュー。『ぼくらの七日間戦争』などの出演を経て、92年TBS系ドラマ『ずっとあなたが好きだった』の桂田冬彦役で大ブレイクする。2018年『限界団地』で連続ドラマ初主演。俳優活動のほか、故郷松江にゆかりのあるラフカディオ・ハーン(小泉八雲)作品の朗読を現在も続けている。

「文春オンライン」編集部

文春オンライン

名無しさん
3時間前
ゴジラの話になると佐野史郎は面倒(笑)テレビで延々とVSゴジラを罵倒していた姿は不愉快だった
名無しさん
3時間前
「ずっとあなたが好きだった」は最初から見てはいなかったが、「冬彦さん現象」がドラマの中盤くらいからあって、それから見出して、佐野史郎さんの演技にドン引きしながら引き込まれていたのを思いだします。
もう26年経った今でもその衝撃は忘れられません。
名無しさん
2時間前
平成最後のゴジラと言えば、昭恵夫人。
本人は普通に良いことをやってきたつもりなのに首相夫人だということで、周りのものすごい迷惑をかけて、とうとう財務省のまで崩壊寸前に追いやった。
そしてこれからの時代のゴジラは、高齢者だ。
好きで年をとったわけではなく、いつの時代も人は年老いて死ぬ。
ところが、住民が高齢者ばかりになってしまった限界団地では何が起こるのか想像もつかない。
佐野史郎演じる老人は、超高齢化社会へ向かう日本人の不安を反映し、再びブームになるかもしれない。
名無しさん
2時間前
相棒でもいい役やってたね。
佐野史郎はやはり面白い。
名無しさん
2時間前
途中からどんどん特撮の話になるの噴いた。
ゴジラもウルトラマンもライダーに戦隊も出たからね。
名無しさん
1時間前
この人のゴジラ愛は本物。
同じゴジラファンとしてよく分かる。
シンゴジラに出てほしかったな。
名無しさん
1時間前
野際陽子さんもとても素敵な女優さんでしたね
お二人の関係するドラマは大好きでした
名無しさん
58分前
寺田ユウノスケって役もやってたな。

 

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